時吉あきな個展「気になる中華料理店」
会期:2021年12月3日(金)-12月15日(水)
会場:WHITEHOUSE「ナオ ナカムラ」
東京都新宿区百人町1-1-8 WHITEHOUSE
会場時間:13:00-19:00 火曜日休み
料金:パスポートメンバー:無料/ 一般:100円
作家:時吉あきな
お問合せ:nakamuranao19900715@gmail.com(中村奈央)
この度、WHITEHOUSE「ナオ ナカムラ」では、時吉あきな個展『気になる中華料理店』を開催いたします。
時吉あきなは1994年大阪府生まれ。2016年京都造形芸術情報デザイン学科を卒業。
代表作とも言える原寸大の犬を立体コラージュで制作した作品『ワンオール』で2017年第16回グラフィック「1_WALL」のグランプリを受賞し、受賞作は「芸術に関心のない人でも巻き込まれる勢いを感じさせる」と審査員に評価され、同グランプリ受賞個展『ナンバーワン』(2018/ガーディアン・ガーデン)ではその言葉通り、一躍注目を集めました。
私の妊娠、出産を経てオファーから3年越しでの実現となる今展は、時吉にとっては5度目の個展ですが、ナオ ナカムラでは初個展です。
時吉は、対象物をスマートフォンであらゆる角度から撮影してコピー用紙に出力。記憶と感覚を元に新聞紙で原寸大に型取ったベースの上に木工用ボンドを使い立体コラージュしていきます。
超初期のCGアニメーションのような造形と、どこかの民芸品のような、子どもの工作のような、シンプルな材料と手しごとから生まれる作品は、立体を撮影して平面に出力し再び立体に再構築する点に加えて、時吉の理想や空想のストーリーを現実と織り交ぜて形容したり、対象物の感情や視点を取り入れるといった、デジタルとアナログ、2次元と3次元、リアルとフェイクの往来で生じる時空の歪みと写真同士の強引な継ぎ接ぎにより、本来の対象物よりも少々アンバランスながら妙なリアリティとユニークさ、写真と彫刻の間を突き進むようなフレキシビリティの高さが見て取れます。
何より、私が時吉に惹かれるのは、彼女自身が持つピカイチのセンスとユーモアに溢れるキャラクターもさることながら、鑑賞者との時間の共有をベースに置き、作品に対する過剰な意味づけや無闇な答えを見出さないその真っ直ぐな姿勢と、可愛さや面白さに留まらない、”愛しいものの分身”を感じさせる作品そのものの姿から、愛のこもったものづくりを感じさせてくれるところにあります。
今展は、時吉が小学6年生の頃に親戚と訪れた、気になる中華料理店がモチーフです。
店名や所在地など詳細は分からず、おぼろげで断片的な記憶だけが残りますが、「コマ送りでいつくかのシーンや会話を繰り返し思い出す」と彼女は言います。
先日、わずかな記憶と少ない情報を頼りにリサーチを重ね、ようやく辿り着いたあの中華料理店を時吉らしいエピソードとともに構成します。
まるで大昔にタイムスリップしたかのような、どこまでが真実でどこからが空想なのか、曖昧ながらも作品によってひとつずつ確かめるように辿る今展を時吉とともに皆様にも追体験していただけましたら幸いです。
こちらの中華料理店、12月3日から15日までの期間限定、営業時間は13:00-19:00、定休日は火曜日になります。
時吉あきなによる「気になる中華料理店」をこの機会にどうぞご覧ください。
中村奈央
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この度は「気になる中華料理店」にご来店頂き、ありがとうございます。
今展は、私が小学6年生の頃に親戚たちと訪れた、ある中華料理店についての物語です。
私には、定期的に思い出す風景や出来事がいくつかありますが、そのどれもが正確なことは分からずに、コマ送りでいくつかのシーンや会話を繰り返し思い出しているような感覚です。
その中華料理店には、何かのお祝いで訪れました。
山道を抜けると池があり、その上にある六角屋根の建物が中華料理店です。
建物は豪華なのですが中は暗く、どんよりとした雰囲気です。大きな窓があり外の池が見えるようになっていました。お客は私たちともうひと組のご夫婦だけでした。
私たちが見た従業員はホールスタッフの女性のみで、無表情で棒読みだったことから、大人たちは「愛想がないなぁ〜」と言っていましたし、私もそう思ったのかもしれません。
その後、注文をしてもなかなか料理は出て来ませんでした。
「オーダーは通ってますか?あとどれくらいかかりそうですか?」と尋ねたり、それぞれが文句を言っていた記憶があります。
痺れを切らした大人たちが、「もうこれ以上は待てない!帰ろう!」と席を立ったところへ、 先程よりもさらに感情が無!という感じのホールスタッフがやっと料理を運んできました。頼んでいた料理が一気にテーブルに並びましたが、食べ物の味は全く記憶にありません。
お店を出た頃には外は真っ暗になっていて、「せっかくのお祝いなのにこんなところでごめんね〜」「〜さんが美味しいって言ってたのに全然やったなぁ」という会話が帰りの車で繰り広げられました。
思い出せることはそれくらいなのですが、なぜかその記憶と宮沢賢治の「注文の多い料理店」のお話をいつもセットで思い出します。暗い雰囲気やあまりにも長い待ち時間のせいで、「このまま食べられるんちゃう?」という会話があったのかもしれません。
こうしたぼんやりとした記憶だけがずっと頭に残っており、あの中華屋はどこにあるんだろうと定期的に思い出しては検索するのですが、見つける事が出来ませんでした。
つい最近親戚たちに会う機会があり、その時の話をしたところ、「そんなことあったな!宮沢賢治の作品に出てきそうなお店な!」と、お互いの不確かな記憶を共有して盛り上がりました。
後日、その中華料理店が奈良県にあったという情報だけを頼りに、その地域に住む友達などに連絡を取ってくれたそうで、住所が判明しました。
その中華料理店は、平城京跡地の池の上に建てられていたそうです。
今は池自体も無くなってしまい、そこにはただ一本の木が生えていることがGoogleマップから分かりました。教えてもらった住所と、一本の木の写真を頼りに答え合わせをするような気持ちで現地へ向かいました。
辺り一体は草で覆われており、犬のお散歩ロードのようになっていました。中華料理店があったと思われる場所には、立ち入り禁止の札が立てられており、木が一本生えていました。
その風景を見た時に、不確かだった記憶は更に曖昧なものになり、みんなで同じ夢を見たのかなぁと思いました。
私はこの出来事がフレッシュなうちに誰かに話したくなりました。そして、私自身もまたあの中華料理店に訪れてみたくなり、この展覧会のテーマとさせて頂きました。
私が子供の頃に体験した不思議な出来事を、皆さんにも味わって頂けると幸いです。
時吉あきな